撮ったときにはさよなら一つ。 少し前にさよなら二つ。 そして明日はさよなら三つ。
人影の消えた漁港を、ふらりふらりと歩く。 潮の香りを纏い、波の音に包まれる。 ふと足元の感覚を忘れ、自分の存在を忘れる。
前を歩けばそこに座ってくださいと誘われているようで、 近づいてみるとおまえの居場所ではないと突き放される。
彼は消え、 しかし私はまだ生きている。
夕日に照らされる雲を見て、 ふっと一つ息を吐く。
自分の役割を、少しだけ放棄してみる。 そのくらい、したっていいじゃないか。
そこにいつも存在したはずのもの。 いつの間にか無くなったもの。 次に存在しようとするものが、 記憶まで埋め立てていくのか。
あせる。 とりみだす。 どうしよう。 だけどゆくさきは、 あかばかり。
風がふとやみ、 低い日差しに照らされる。
何でもない路地裏の景色も、 いつ消え去るかわからない。 でも、変化が悪い事じゃない。
フェンスに囲まれて静かに眠る。 傘は何かの手向けか。
早くも日本海の波は高くなる。 この景色もまた、今は昔。
船溜まりに風が吹き、 干した作業着がゆらゆらと揺れる。 まぶしさのあまり目を細めるも、 閉じたくないのは懐かしさのせいか。
眼前の雲海は、しかしまだ通過点。 あの雲の上を目指すんだ。
いつか誰かのお手元に。 そんな夢を見て、今はお呼びがかかるのを待ってる。
シャッター通りを抜けると、 その先にあるのは氷室だった。
せめて写真の中くらい涼しく。
壁に影が焼き付いてしまいそう。
当たり前と思っていたものが、 いつの間にか無くなる。 とてつもなく揺さぶられる。
倉庫街の番人も、自分の仕事に疑問を持ったら、 たまには寝たくなるものだ。
今が一体いつなのか。 今日は本当に今日なのか。 今日とはなんなのか。 今一度、自分の足元を見直してみる。
まだまだ、上へ。のびろのびろ。
「にゃあ」とは啼かない。秋葉原一静かな猫。
未来的なビルとノスタルジックな船? いや、どっちも今のこと。
放置されたままの夏草や。
新旧。 明暗。
東京下町、大通りの裏道。
ごろごろやってくる電車。 まばらに降りる人。 ゆったりとした時間。 誰かと待ち合わせ。 そんな駅は、すでに幻。
何もない昼下がり。
空気が凛とする。 何をか守護する。