さよなら三つ

撮ったときにはさよなら一つ。 少し前にさよなら二つ。 そして明日はさよなら三つ。

稚内、夕。

人影の消えた漁港を、ふらりふらりと歩く。 潮の香りを纏い、波の音に包まれる。 ふと足元の感覚を忘れ、自分の存在を忘れる。

東京、昼。

前を歩けばそこに座ってくださいと誘われているようで、 近づいてみるとおまえの居場所ではないと突き放される。

逢魔が時。

彼は消え、 しかし私はまだ生きている。

大阪、夕。

夕日に照らされる雲を見て、 ふっと一つ息を吐く。

某所、昼。

自分の役割を、少しだけ放棄してみる。 そのくらい、したっていいじゃないか。

東京、夜。

そこにいつも存在したはずのもの。 いつの間にか無くなったもの。 次に存在しようとするものが、 記憶まで埋め立てていくのか。

東京、夜。

あせる。 とりみだす。 どうしよう。 だけどゆくさきは、 あかばかり。

東京、昼。

風がふとやみ、 低い日差しに照らされる。

東京、昼。

何でもない路地裏の景色も、 いつ消え去るかわからない。 でも、変化が悪い事じゃない。

東京、昼。

フェンスに囲まれて静かに眠る。 傘は何かの手向けか。

餘部、秋。

早くも日本海の波は高くなる。 この景色もまた、今は昔。

東京、昼。

船溜まりに風が吹き、 干した作業着がゆらゆらと揺れる。 まぶしさのあまり目を細めるも、 閉じたくないのは懐かしさのせいか。

富士山、朝。

眼前の雲海は、しかしまだ通過点。 あの雲の上を目指すんだ。

東京、昼。

いつか誰かのお手元に。 そんな夢を見て、今はお呼びがかかるのを待ってる。

坂出、昼。

シャッター通りを抜けると、 その先にあるのは氷室だった。

木崎湖、冬。

せめて写真の中くらい涼しく。

東京、昼。

壁に影が焼き付いてしまいそう。

尾道、昼。

当たり前と思っていたものが、 いつの間にか無くなる。 とてつもなく揺さぶられる。

東京、昼。

倉庫街の番人も、自分の仕事に疑問を持ったら、 たまには寝たくなるものだ。

東京、昼。

今が一体いつなのか。 今日は本当に今日なのか。 今日とはなんなのか。 今一度、自分の足元を見直してみる。

東京、昼。

まだまだ、上へ。のびろのびろ。

東京、昼。

「にゃあ」とは啼かない。秋葉原一静かな猫。

東京、昼。

未来的なビルとノスタルジックな船? いや、どっちも今のこと。

東京、昼。

放置されたままの夏草や。

東京、昼。

新旧。 明暗。

東京、昼。

東京下町、大通りの裏道。

田舎駅、昼。

ごろごろやってくる電車。 まばらに降りる人。 ゆったりとした時間。 誰かと待ち合わせ。 そんな駅は、すでに幻。

東京、昼。

何もない昼下がり。

東京、夜。

空気が凛とする。 何をか守護する。